道は、まだ北へ続いている。

直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、写真や音楽のこと。思いつくまま、ここに書いています。
直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、
北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、
写真や音楽のこと。
思いつくまま、ここに書いています。

道の駅の向こう側 #7|まだ遠くへは行けない

今日の行き先

訪問日:2026年7月4日(土)
場所:道の駅 しんしのつ
天候:晴れ
移動手段:Harley-Davidson Forty-Eight
カメラ:Panasonic LUMIX DC-TX3

今日は、フォーティーエイトで新篠津へ向かった。往復で、およそ45km。

距離だけを見れば、たいしたことはない。以前の自分なら、そう思ったかもしれない。

でも今は違う。手術からまだそれほど時間は経っていない。ストーマもある。体の中には、まだ以前とは違う感覚が残っている。それでも、45kmなら、なんとか体は持つだろう。そう思った。

フォーティーエイトで走り出す

エンジンをかける。フォーティーエイトの鼓動が、体に伝わってくる。

VANのジャケット

ストーマの周辺。そして、手術をした直腸のあたり。鼓動が、それとなく響いてくる。痛いというほどではない。でも、何も感じないわけでもない。まだ完全に回復するには、時間がかかるのだろう。そんなことを考えた。

それでも、走り出せば風が来る。ヘルメットの中を抜けていく風。腕に当たる風。胸の前を流れていく空気。体の違和感は消えない。けれど、バイクに乗れる喜びと、走っているあいだに感じる風が、それを少しだけ遠くへ押しやってくれた。

新篠津へ向かう道

道の両側には、水田が広がっていた。稲は、少しずつ黄金色に染まり始めている。真夏の緑とは違う。まだ秋ではない。その途中にある色だった。

北海道の季節は、気づかないうちに少しずつ先へ進んでいく。バイクで走っていると、それがよく分かる。車の窓越しではなく、風の温度と匂いで感じる。

ただ、道は思っていたより良くなかった。舗装には補修跡が多く、穴を埋めた箇所がいくつもある。フォーティーエイトの足まわりには、少し厳しい。路面の継ぎ目を越えるたび、衝撃が体に返ってくる。

タイヤをミシュランの新品に交換したばかりだった。それに、幾分助けられている気がした。以前の古いタイヤのままだったら、もう少し体に響いていたかもしれない。

初めて持ち出した、小さなカメラ

今回、初めてPanasonic LUMIX DC-TX3を持ち出した。ツーリングのために買ったコンパクトデジタルカメラだ。

Sony α7 Vは素晴らしい。でも、バイクに積むには大きい。その点、DC-TX3は小さい。停まりたいと思ったときに、すぐ取り出せる。

バイクを降りる。グローブを外す。カメラを出す。写真を撮る。それだけのことが、ずいぶん楽になった。

ツーリングで写真を撮るというのは、画質だけの話ではないのかもしれない。持ち出せること。すぐ使えること。それもまた、カメラの性能なのだと思う。

道の駅 しんしのつ

道の駅しんしのつの正面入口

道の駅 しんしのつに着いた。何度か来たことのある場所だ。だからこそ、少し違和感があった。

キャンプ場のテントが、思っていたより少ない。3年ほど前に来たときは、もっと多かった記憶がある。テント。タープ。車。人。あの頃は、どこへ行ってもキャンプ場が混んでいた。

でも今日は違う。空間がある。芝生が見える。静かだ。

キャンプブームも、ひと区切りついたということなのだろうか。少し寂しい気もした。でも、本来のキャンプ場は、このくらいの方がいいのかもしれない。

道の駅のまわりには、夏の花が鮮やかに咲いていた。

しのつ公園に咲く色とりどりの夏の花壇

帰り道

帰り道に入るころ、体の痛みが少し強くなってきた。行きでは気にならなかった場所が、帰りでは気になる。同じ45kmの中でも、前半と後半では体の状態が違う。まだ無理はできない。そのことを、体が教えてくる。

左手にも少し不安があった。クラッチを握る。離す。また握る。握力が落ちてきている気がした。大丈夫だろうか。家まで帰れるだろうか。そんなことを考えながら、速度を少し落とした。急ぐ理由はない。ゆっくり帰ればいい。

今日の一枚

道の駅しんしのつ前に停めたHarley-Davidson Forty-Eight

今日の一枚は、道の駅の駐車場に停めたフォーティーエイトにした。

青空の下、道の駅の建物を背景に黒い車体が並んでいる。特別な瞬間ではない。ただ、無事にここまで走ってきたことの記録だった。

写真を撮るとき、いつも派手な景色を探しているわけではない。今日は、走ってきたバイクがそこにあること自体が、ひとつの景色だった。

すれ違うライダーたち

帰り道、多くのライダーとすれ違った。荷物を積んだバイク。大きなスクリーン。遠くまで走るための装備。これから北へ向かうのだろう。道東か。道北か。もっと先か。

すれ違う一台一台を見ながら思った。

 

自分は、まだ遠くには行けない。

 

以前なら、それを悔しいと思ったかもしれない。でも今は、それでいい。今日は新篠津まで来た。フォーティーエイトで走った。風を感じた。写真も撮った。

しのつ公園の水辺に停めたHarley-Davidson Forty-Eight

そして、ゆっくり帰っている。それで十分だ。

道の駅の向こう側

遠くへ行くことだけが、旅ではない。以前の自分なら、そう簡単には思えなかったかもしれない。距離。時間。目的地。どこまで行ったか。そんなもので旅を測っていた気がする。

でも今は違う。

今日は往復45km。体の痛みを気にしながら走った。左手の握力も気になった。ストーマのことも、手術した場所のことも、完全に忘れたわけではない。それでも、バイクに乗った。風の中を走った。新篠津まで行って、戻ってきた。今の自分には、それが確かな一日だった。

少しずつでいい。行ける場所を増やしていく。距離を伸ばす。体の声を聞く。無理をしない。いつか、もっと北へ行ける日が来るかもしれない。でも、まだ遠くへは行けない。今は、それでいい。

エンジンを止める。しばらくして、フォーティーエイトの鼓動が消える。今日の風だけが、まだ少し体に残っていた。

道は、まだ北へ続いている。

 

 

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