道は、まだ北へ続いている。

直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、写真や音楽のこと。思いつくまま、ここに書いています。
直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、
北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、
写真や音楽のこと。
思いつくまま、ここに書いています。

握力が落ちた。フェザーレバーという処方箋

術後のリハビリで、体力測定をした。

握力計を握る。左手の数字は、40キロをわずかに下回った。

「40キロ切ったか。情けないな」

私は、そんなことをつぶやいた。

担当してくれたのは、20代後半くらいに見える若い理学療法士の先生だった。

「大丈夫ですよ。しばらくしたら戻りますから」

明るく、そう言った。

そのときは、まあ、そうだよなと思った。手術を終えたばかりなのだ。体力も落ちている。筋力だって、少しずつ戻せばいい。病院の中では、それで納得できた。

退院して、バイクに乗るまでは。

バイクに乗って、初めて分かった

Harley-Davidson Forty-Eightに乗り、クラッチを握った。そこで、すぐに分かった。

握力は落ちている。はっきりと。

クラッチは、ただ握ればいい装置ではない。完全につなぐ。完全に切る。その間にある、ごく狭いところを使いながら、バイクを動かす。特に低速では、微妙な加減で車体を制御し続ける。

発進。低速。右左折。渋滞。

特に街の中では、左手がずっと仕事をしている。微妙な力加減で、重いバイクを制御し続ける。

病院の握力計では、40キロを少し下回った。数字だけを見たときは、それほど深刻には考えなかった。けれど、クラッチを握れば分かる。

内心、まずいなと思った。この状態で、何時間もつだろう。信号待ちの回数。市街地を抜けるまでの時間。帰り道。そんなことを、頭の中で計算した。

とりあえず、今の状態を知りたかった。走ってみることにした。

四十分ほどで、左腕がきしみ始めた

一時間ほど走った。最初は、それほど問題なかった。走れている。バイクにも乗れている。術後にもう一度Forty-Eightへ戻れたこと自体が嬉しかった。

けれど、四十分ほど経った頃だった。左腕の腱が、きしみ始めた。

鋭い痛みではない。でも、分かる。このまま続ければ、まずい。

「やっぱりきたか」

そう思った。驚きはなかった。むしろ、どこかで予想していた。

握力が落ちた状態で、重いクラッチを何度も操作する。身体は正直だった。走りたい気持ちとは関係なく、限界はやってくる。

そこで考え始めた。レバーを替えるか。それとも、VPクラッチを入れるか。

我慢して乗る、という選択肢

Harley-Davidsonなのだから、クラッチが重いのは仕方がない。慣れればいい。腕を鍛えればいい。

昔なら、そんなふうに考えたかもしれない。重いものを扱えることを、どこかで格好いいと思っていた。

けれど今は、少し考え方が違う。直腸がんの治療をした。手術を受けた。ストーマと暮らすようになった。身体は、以前とまったく同じではない。だからといって、バイクを諦めたいわけでもない。

無理をして乗るのではなく、乗り続けるために少し変える。その方が、今の自分には合っている。

そこで選んだのが、サンダンスのフェザーレバーだった。

サンダンス T-Spec フェザータッチパワーレバーセット(品番BCL-006BK)

サンダンス フェザーレバー

このレバー自体は、以前から名前を知っていた。

ハーレーはクラッチが重い。そのことは、いろいろな場面で話題になる。

そして、改善策を調べると、何度も目にしたのが、このフェザーレバーだった。

交換したのは、クラッチ側とブレーキ側。見た目を変えることが目的ではなかった。一番の理由は、左手の負担を減らすこと。

正直に言えば、交換前は少し半信半疑だった。レバーを替えただけで、そこまで変わるのだろうか。クラッチそのものが別物になるわけではない。エンジンも変わらない。バイクの重さも変わらない。

けれど、実際に握ってみると違いは分かった。

軽い、というより、感覚が変わった。

これまで指3本がけで操作していたところが、2本がけで済むようになる。そんな感じに近い。

もちろん、別のバイクになったわけではない。Forty-Eightのクラッチであることに変わりはない。それでも、交換前とは明らかに違う。握り始めの負担が少ない。繰り返し操作したときの疲れ方も違う。何より、左手に余計な力を入れなくていい。

なるほど、と思った。名前だけが先に歩いていたわけではないらしい。

数字ではなく、左腕が先に分かった

こういう部品の記事を書くと、「何%軽くなったのか」という話になりがちだ。

けれど、私は測っていない。握力計で交換前後を比較したわけでもない。レバー比を計算したわけでもない。だから、数字では書けない。

ただ、左腕は分かった。

信号待ち。渋滞。低速での取り回し。以前なら少し身構えていた場面で、余計な力を使わなくなった。

あの四十分ほどで始まった、腱のきしみ。それを一度経験しているからこそ、違いはよく分かる。

バイクというものは不思議で、ほんの小さな負担が、走ることそのものを億劫にする。逆に、その小さな負担が減るだけで、もう少し先まで行ってみようと思える。

自分で交換しなかった理由

レバー交換そのものは、一見すると極端に複雑な作業には見えない。

私も工具は好きだ。自分で触れるところは、自分で触ってみたいと思う。

けれど今回は、ショップにお願いした。操作系の部品だ。取り付ければ終わり、と単純に考える気にはならなかった。安心して乗るために、店へ任せる。今は、その判断も悪くないと思っている。

レバー本体は29,700円(税込)。クラッチ側とブレーキ側を交換して、工賃は4,000円だった。合わせて33,700円ほど。この金額なら、なおさら無理に自分でやる理由はなかった。

バイクを、自分の身体に合わせていく

若い頃なら、身体をバイクに合わせようとしたかもしれない。重いなら鍛える。痛いなら我慢する。

けれど今は、逆でもいいと思っている。バイクを少しだけ、自分の身体に合わせる。

タイヤを替える。レバーを替える。遠くへ行きすぎない。それで走り続けられるなら、その方がいい。

Forty-Eightは、相変わらず軽いバイクではない。エンジンをかければ振動する。路面が荒れていれば、身体にも伝わる。でも、クラッチは少し軽くなった。その小さな変化が、今の自分には思っていたより大きかった。

次は、このレバーでもう少し走ってみようと思う。遠くでなくていい。札幌の街を抜けて、どこかひとつ、目的地を決める。

軽くなったクラッチを握りながら。

 

 

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