道は、まだ北へ続いている。

直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、写真や音楽のこと。思いつくまま、ここに書いています。
直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、
北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、
写真や音楽のこと。
思いつくまま、ここに書いています。

道の駅の向こう側 #9|雨の月形を歩く

訪問日:2026年7月10日(金)
場所:月形町
天候:雨
移動手段:BMW 320d
カメラ:Sony α7 V / FE 24-70mm F2.8 GM II

雨の朝に、車を選ぶ

今日は月形へ向かった。

札幌を出て、北へ向かう。雨の予報だった。バイクなら迷わず中止にしていたところだ。

バイクという乗り物は、天候にどうしようもなく左右される。雨具を着込んで走ることもできるが、それでは景色を楽しむどころではなくなる。

でも、車ならいい。

ワイパーが規則正しく水を払う。助手席にはα7 Vを置いた。

雨の日の月形を、少し歩いてみようと思った。

灰色の道を、ただ走る

窓の外を、田園風景が流れていく。

雨に濡れた緑は、晴れた日よりも濃く見えた。空は灰色で、遠くの丘の輪郭が少し霞んでいる。

バイクで走るときのような、風や振動を身体で感じる高揚感はない。その代わり、車内には雨の日らしい静けさがあった。

何を考えるでもなく、ただ運転する。

ワイパーが動く。

雨音が続く。

そうしているうちに、月形の町へ近づいていった。

撮影禁止という、想定外

まず向かったのは、樺戸博物館だった。

樺戸博物館 旧樺戸集治監本庁舎

駐車場に車を停め、傘をさして歩く。旧樺戸集治監本庁舎の建物は、想像していたよりずっと重厚だった。

緑がかった屋根。黒い木造の壁。古い窓。石段。

雨の下に、静かに立っていた。

正面玄関に立つと、この場所が持つ歴史の重さのようなものを、なんとなく感じた。

館内に入り、しばらくして撮影禁止の文字が目に入った。

想定外だった。今日はα7 Vを持ってきた。館内でも何枚か撮るつもりでいた。

だが、仕方がない。レンズにキャップをして、展示を見ることにした。

結果的には、それでよかったのかもしれない。カメラを構えないぶん、説明文をいつもより長く読んだ。

当時の資料。写真。記録。

ひとつひとつを見ながら歩く。写真に残せない代わりに、目で覚えるしかない。いつもより長く、その場に留まっていた気がする。

外へ出てから、もう一度建物を見た。さっきより少しだけ、違って見えた。

どちらが道の駅か、一瞬迷う

道の駅に着いたのは、その後だった。

月形温泉ゆりかご 三角屋根

車から降りて見渡すと、三角屋根の建物が二つ見える。どっちが道の駅だろうか。一瞬、考えた。

なんとなくだが、トイレのある方だろうと思い、そちらへ歩いた。実際、それで正解だった。

月形温泉ゆりかごの大きな三角屋根と、その周辺に道の駅の施設がまとまっていた。木の柱が印象的な、開放感のある建物だった。

中に入る。どこの道の駅も、中はそう変わりない。

地元の野菜。加工品。土産物。

そんなことを言うと、怒られそうだ。それでも、その「変わらなさ」に安心することがある。

旅先で、迷わず何かを買える。休める。トイレがある。それだけで、少し肩の力が抜ける。

外を見ると、雨はまだ歩けないほどではなかった。もう少し先へ行ってみることにした。

柳が濡れる道を、一人で歩く

湖の周りの道を歩いた。

雨に濡れた柳は、少し物悲しく見えた。垂れた枝葉が、雨の重さでさらに低く見える。誰もいない道を、一人で歩く。

足元には、白い小さな花が点々と咲いていた。

晴れていたら、もっと多くの人が歩いていたのかもしれない。今日は静かだった。寂しいというより、少し贅沢だった。

途中で足を止めた。水辺へ傾くように立つ柳と、その先へ続く石畳の道が見えた。遠くには、小さなボートがある。

月形 湖畔の柳と遊歩道

カメラを構えた。その場では、うまく撮れたかどうか分からなかった。ただ、少し気になった。それでシャッターを切った。

朱色の橋、水面の波紋

赤い橋にたどり着いた。

月形 赤い橋

橋の上から湖を見ると、釣り人がいた。近づこうとは思わなかった。何が釣れるのだろう。

水面には、ときどき魚らしい波紋が広がった。雨が作る細かな輪とは違う。少し大きな輪ができ、ゆっくり消えていく。

橋の朱色は、灰色の景色の中でよく目立った。

晴れていれば、もっと明るい景色になったのだろう。

青い空。強い緑。赤い橋。

けれど今日は、そうではない。低い空の下に、朱色だけが少し残っている。その方が、今日の月形には合っているように思えた。

急ぐ理由もなかった。しばらく、水面を眺めていた。

子どもの頃の炊事場を思い出す

さらに歩くと、キャンプ場の炊事場があった。当然、誰もいない。

古びた流し台。錆びた配管。横一列に並ぶ蛇口。濡れたコンクリート。

月形 キャンプ場の炊事場

そこで足が止まった。

子どもの頃の学級キャンプで、カレーを作ったことを、なぜか思い出した。

炊事は女子の役割。火起こしは男子の役割。そう決まっていた。

今の子どもたちは、どんなふうに役割を分けているのだろう。ふと、そんなことが気になった。時代とともに変わったこと。変わらなかったこと。

蛇口の並ぶ様子は、昔の学校のものとどこか似ていた。誰かがここで野菜を洗い、誰かが火を起こした。そんな時間があったのだろう。

今は誰もいない。雨に濡れた蛇口だけが、並んでいた。

少し低い位置から、カメラを構えた。手前の蛇口にピントを合わせる。奥の蛇口が、少しずつぼけていく。

たぶんこの日、初めて「これを撮る」と決めてシャッターを切った写真だった。

有名な景色ではない。月形を紹介する写真にもならない。それでも、私はここで立ち止まった。

写真というのは、そういうことなのかもしれない。きれいなものを探すのではなく、自分が立ち止まった理由を残す。そんなことを、少し考えた。

今日の一枚

先ほどの赤い橋を、今日の一枚に選んだ。

灰色の景色の中で、あの朱色だけが、今日の月形を覚えている気がした。

道の駅の向こう側

雨の日は、写真を撮るには不向きだと思っていた。

けれど、雨に濡れた柳も、灰色の水面も、誰もいない炊事場も、晴れていたら同じようには見えなかっただろう。

博物館の中は撮れなかった。公園では、何を撮ればいいのか分からなくなった。それでも歩いているうちに、赤い橋で立ち止まり、古い蛇口にカメラを向けた。

雨の中を一通り歩き終え、車へ戻った。

月形 水辺の家とBMW 320d

ドアを閉める。身体は少し冷えていた。

エンジンをかける。しばらくすると、雨が激しくなってきた。ギリギリだった。

月形では、のんびり歩けた。写真も撮れた。うまく撮れなかった写真もあった。それで十分だった。

今日の景色をひとつ持ち帰る。

道は、まだ北へ続いている。

 

 

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