道は、まだ北へ続いている。

直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、写真や音楽のこと。思いつくまま、ここに書いています。
直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、
北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、
写真や音楽のこと。
思いつくまま、ここに書いています。

道の駅の向こう側 #11|銀河を旅する少年に、心を重ねて

今日の行き先

訪問日:2026年7月18日(土)
場所:安平町
天候:雨
移動手段:BMW 320d
カメラ:Sony α7 V / FE 24-70mm F2.8 GM II

安平町。道の駅あびらD51ステーションへ向かう。

雨の予報だった。バイクなら迷わず中止にしていたところだが、BMWなら天気は言い訳にならない。

蒸気機関車が展示されていると聞いていた。デゴイチ、と呼ばれる車両らしい。

駐車場に入る。

雨の中の道の駅あびらD51ステーションの看板

雨降りだというのに、車はほぼ満車だった。カッパを着た警備員が、次々と入ってくる車を誘導している。

雨なら人も少ないだろうと思っていた。予想は、まるで外れていた。

なぜこんなに混んでいるのか、見当もつかなかった。

小雨だった。

車を降りると、まず目に入ったのがキハ183系だった。

赤とクリーム色に塗られた車体が、雨に濡れて、屋外にそのまま展示されている。特急「おおぞら」として走っていた車両らしい。

しばらく見ていると、懐かしい気がしてきた。

子供の頃、こんな形の列車に乗ったことがある気がする。いや、小学校低学年の頃に使っていた筆箱か、手回しの鉛筆削りに描かれていたのかもしれない。

はっきりとは覚えていない。ただ、懐かしい気がした。

屋外に展示されたキハ183系「おおぞら」

このキハを撮ろうとして、少し困った。

距離があるのに、手元のレンズは24-70mm止まりである。寄れない。画角に収めるだけで精一杯だった。

もっとズームできるレンズが欲しくなる瞬間だった。だが、今日はこれで十分だと思うことにする。

館内に入る。

入った瞬間、目の前にパン屋が広がった。

帰りに、土産として買っていこうと思う。嫁も娘も、パンが好きである。

天井の高い、木の梁が印象的な空間だった。「追分駅」と書かれた看板が、かつてここが鉄道の町だったことを静かに語っている。

道の駅あびらD51ステーション、追分駅の看板がある館内

さて、蒸気機関車はどこだろう。周りを見渡す。

左奥に、黒い何かが見える。たぶん、あれだろう。

奥へ進む。鉄道資料館というらしい。

SL倉庫という場所に、D51は静かに展示されていた。

SL倉庫に保存された蒸気機関車D51 320号機

重いガラス扉を開き、中へ入る。

ちょっと意外だった。新車のように、ピカピカで綺麗な蒸気機関車だった。

車やバイクで言えば、レストアして全塗装した、というのが分かりやすいだろうか。

近づくと、その大きさに圧倒される。見上げると、二つのヘッドライトがこちらを見下ろしていた。

見上げたD51 320号機のヘッドライトとナンバープレート

鉄の塊、としか言葉が出てこない。

それにしても、と思う。

自分たちは今、写真という形で、この非日常な巨大さを持ち帰ることができる。だが、当時の人たちはどうしていたのだろう。

そもそも、これが日常だったのだ。わざわざ持ち帰ろうなどと、考えもしなかったのかもしれない。

ファインダーを覗きながら、ふと、そんなことを思った。

子供の頃に来たら、さぞ楽しかっただろうと思う。

引けば汽笛が鳴る紐や、押せば蒸気で白い靄が出る仕掛けなどがあれば、面白かったに違いない。

そこまで考えて、我に返った。

ここは記念館である。遊園地ではない。

一通り、ぐるっと一周してみる。

途中、資料館らしく説明文が展示されていた。油を塗っているのでべたつく、という注意書きがある。

なるほど、この艶とテカりは油か。

錆という錆は、見当たらない。かなり厳重に保全されているのが分かった。

動輪に近づいてみる。

鉄の塊が、規則正しく並んでいる。油の匂いがした。

D51の動輪とロッド

蒸気機関といえば、石炭をくべる場面を、映画か何かで見た記憶がある。

運転席をのぞき込んだ。

暗くて、よく分からなかった。窓から差し込む光だけが、そこに何かあることを教えてくれる。

レバーや計器の影が、静かに沈んでいた。

窓から光が差し込むD51の運転席

ガラス越しに、計器盤を撮った。

反射で輪郭がぼやける。それでいい、と思った。

すべてが、はっきり見える必要はない。

ガラス越しに見えるD51の計器盤

そうこうしているうちに、人が増えてきた。

大きいカメラをぶら下げているのは、相変わらず自分だけだった。写真が趣味の人は、どこにいるのだろう。

みんな、D51を背に、スマホで記念写真を撮っている。

撮る人も、撮られる人も笑顔だった。それが印象的で、少し羨ましくもあった。

ある程度、カメラに収めた。邪魔にならないよう、展示場を後にする。

今日の一枚

暗い運転席に、窓からの光だけが差し込んでいる一枚。

説明するより、そこにあった空気を、そのまま残しておきたかった。

売店で、コーヒーを買った。

もちろん、ホットである。

どんなに暑くても、アイスでは飲まない。嫁は、いつも呆れている。

食券を渡すと、店員が聞いてきた。

「ホットですか?」

案の定である。心の中で、少しニヤリとした。

道の駅の向こう側

予定どおり、パンを買った。

いつも量を多く買ってしまうらしく、嫁には怒られる。いちいち種類や味を吟味するのは、正直面倒だ。

適当にトレーに取り、会計へ向かう。

小言を言われるのには、慣れている。とはいえ、何か買ってくるだろうと、向こうも薄々期待しているのは分かっている。

蒸気機関車を見ると、『銀河鉄道999』を思い出す。

機械の身体を求めて、哲郎は旅に出た。

自分にも、同じことができたなら。

もし身体を取り替えられるのなら、この病気も、なかったことにできるのだろうか。

そんなことを考えながら、パンの入った袋を助手席に置いた。

エンジンをかける。ワイパーが、雨を払う。

D51は、もう走らない。

それでも、遥か遠い未来のどこかで、銀河を旅しているのかもしれない。

道は、まだ北へ続いている。

 

 

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