Artist:The Three O'Clock
Album:Sixteen Tambourines(1983)
ビートルズのような大きすぎる音楽を書いたあとで、こういう一枚を棚から出したくなる。
The Three O'Clockの『Sixteen Tambourines』である。誰もが知っているわけではない。でも、知っている人は少し嬉しそうな顔をする。そういう音楽がある。
昔は、レコードが安かった。中古レコード店では、LPが300円や500円で買えた。100円コーナーまであった。CDに完全に置き換わっていた時代だった。レコードは、週末に少し遊ぶための安い楽しみだった。
金曜日の仕事帰り、中古レコード店に寄ることがあった。土日に聴くLPを何枚か探す。目的のレコードがある日もあったが、そうではない日も多かった。棚を眺め、ジャケットを見て、なんとなく手に取る。知らないバンドでも、値段が安ければ買ってみる。失敗しても、それほど痛くなかった。
『Sixteen Tambourines』も、そんな一枚だった。ジャケ買いである。パステルがかった色使いと、少し斜に構えたメンバーの表情に、中身より先に手が伸びた。

当時、このバンドのことをよく知っていたわけではない。正直に言えば、今でもよくわかっていない。ライナーもない。誰がボーカルなのかもよくわからない。それくらい、わからないまま聴いている。
針を落とす。
明るい。軽い。少し甘い。でも、どこかひねくれている。きらきらしているのに、真っすぐではない。色のついたガラス越しに、ギターの音が鳴っているような感じがする。歌は、たぶんうまくない。でも、その危なっかしさも含めて、このレコードの色になっている。ジャケットの甘い色使いと、中身のひねくれた感じが、少しずれている。そのずれが、案外気持ちいい。
知る人ぞ知る。
そういう言葉に、若いころから弱かった。誰もが知っているものより、少し奥にあるもの。棚の端の方にひっそり置かれているもの。有名ではないけれど、知っている人は少し嬉しそうな顔をするもの。そういう距離感が、昔から好きだったのだと思う。
もちろん、知られていないことが偉いわけではない。売れていないことが、価値の証明になるわけでもない。でも、若いころは少し違った。有名すぎるものを避けたくなる気持ちがあった。大通りより、脇道に入りたくなる気持ちがあった。The Three O'Clockの『Sixteen Tambourines』は、まさにそういう一枚だった。
今は、有名かどうかをあまり気にしなくなった。知る人ぞ知る、という感覚も、当時ほど大事ではなくなった。ただ、この一枚を棚から出すときだけ、少しだけあの気持ちが戻ってくる。
針が最後の溝を回り終えると、部屋に静寂が戻った。
レコードを盤面に触れないよう端を持って、ジャケットに滑り込ませる。棚に戻す。背文字が列に並ぶ。また会う日まで、そこにいてくれ。
この一枚を手に取るたび、レコードがまだ安かったころの中古レコード店と、よくわからないまま音楽に出会う楽しさを、静かに思い出す。
次の記事