Artist:Secret Affair
Album:Live At The Bridge(1997)
モッズという言葉を知るより先に、トライアンフのスラクストン900に乗っていた。
カフェレーサーといえばスラクストン。僕の中では、そう思える時代だった。前傾姿勢のポジション、低く絞られたハンドル、無駄のない黒いシルエット。その格好よさの理由は、いつもあとから追いかけてきた。
『ALL THAT MODS!』というムック本を手に取ったのは、そのころだったと思う。
バイクの延長のつもりで読み始めたはずが、いつのまにか音楽の話になっていた。細身のスーツ、ターゲットマーク、ベスパやランブレッタ。スラクストンは、むしろその反対側にいたロッカーズの乗り物だった。それでも僕の中では、同じ英国の匂いがした。
その本は、今もしわをつけないよう大切に保管している。大げさではなく、僕にとっては宝物だ。

Secret Affairという名前を最初に知ったのは、その本ではなかった。『Mods Mayday 79』というライブ盤だった。
会場の熱気ごと録音されたような一枚で、拍手も歓声も演奏と同じくらいの音量で鳴っていた。あの熱量の中に、Secret Affairという名前があった。
実物を手にしたのは、もっとあとのことだ。タワーレコードの棚に並んでいたのが、『Live At The Bridge』だった。
探していたわけではない。ただ、そこにあった。
欲しいものを検索して、すぐに注文できる時代ではなかった。選択肢は、目の前の棚に並んでいるものだけだった。
選んだというより、出会ったのだと思う。棚の前で迷う余地は、最初からなかった。
それでよかったのだと、今は思う。
スタジオ音源を集めた『Time For Action』を手に入れたのは、さらにずっとあとだった。Amazonで、欲しいものを探して注文できるようになってからのことだ。
手に入れようと思えば、いつでも手に入る。そんな時代になって、かえって店頭で偶然見つけた一枚が特別に思えてくる。
『Live At The Bridge』を初めて聴いて驚いたのは、音の良さだった。
『Mods Mayday 79』は、ライブ盤らしい荒さを持った一枚だった。だから少し身構えていたのだが、『Live At The Bridge』は思っていたよりずっと聴きやすかった。
演奏の輪郭がはっきりしている。荒さよりも、勢いの方が前に出ていた。
違和感なく、すっと耳に入ってきた。
好きで選んだわけではないアルバムの方が、案外、棚に長く残る。
若いころは、選べないことを少し物足りなく思っていたかもしれない。今はもう、そうは思わない。
選ばなかったからこそ残った一枚があると、分かるようになった。自由に選べていたら、たぶん別のアルバムを買っていた。その一枚を今も持っていたかどうかは、分からない。
今でも、ふと聴きたくなる瞬間がある。
イングランド代表の試合をダイジェストで見ているときなど、脈絡はないはずなのに、この一枚に手が伸びる。ピッチを包む熱狂と、ライブ盤に入った歓声が、頭のどこかで重なるのかもしれない。
理由はうまく説明できない。ただ、あの時代の匂いのようなものが、どこかでつながっているのだと思う。
最後のトラックが鳴り終わると、部屋に静寂が戻った。
ディスクを傷つけないよう縁を持って、トレイに戻す。
ケースを閉じる。
背表紙が列に並ぶ。
また会う日まで、そこにいてくれ。
このCDをかけるたび、遠い客席の歓声が、タワーレコードの棚にいた頃の自分を連れてくる。
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