道は、まだ北へ続いている。

直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、写真や音楽のこと。思いつくまま、ここに書いています。
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CAPOX療法1クール目・前編|149.5mL/hの、2時間

術後補助化学療法が始まった。

治療はCAPOX療法。オキサリプラチンの点滴と、カペシタビンの内服を組み合わせる。

今回は初回なので、入院して投与を受けることになった。

抗がん剤治療と聞けば、やはり身構える。

吐き気で食べられなくなるのではないか。点滴が始まった瞬間から、身体が急に重くなるのではないか。

SNSを見れば、副作用の体験談はいくらでも出てくる。

ただ、実際に自分の身体に何が起きるのかは、始まってみなければ分からない。

投与当日の朝

CAPOX療法の初回投与当日の朝、静かな病室

朝、シャワーを浴びた。

午前十時までに済ませ、ストーマ装具も交換した。

抗がん剤を受ける日だからといって、病棟の朝が特別に騒がしくなるわけではない。いつものように看護師が来て、体温や血圧を測る。

外科の医師が病室を訪れ、腫瘍内科の病棟で治療を受ける際の説明もあった。

薬剤師からは、使う薬と副作用について説明を受けた。

緩和ケアのスタッフも来てくれた。

「つらい症状があれば、我慢せずに言ってください」

治療が始まる前から、何人もの人が自分の身体を確認している。

それでも、点滴が始まるまでは、どこか現実感がなかった。

病棟に飾られた七夕の笹と短冊

昼食より遅れてきた薬

投与は午前中に始まるものだと思っていた。

しかし、薬はなかなか来なかった。

採血結果を確認し、医師が投与を承認し、その後に薬剤部で抗がん剤が調製される。

出来上がっている薬を棚から持ってくるわけではない。自分の当日の血液検査と体調を確認してから、その日の分が準備される。

頭では理解できる。

ただ、待っている側には、その工程は見えない。

薬より先に、昼食が来た。

食べながらも、いつ始まるのだろうと思っていた。

治療そのものより、始まるまでの時間の方が長い。

初回投与で最初に知ったのは、抗がん剤治療には、思っていた以上に待つ時間があるということだった。

名前と薬を、二人で確認する

昼食後、ようやく薬が病室へ届いた。

看護師が二人で来た。

氏名、生年月日、薬剤名、投与量。

一人が読み上げ、もう一人が確認する。薬剤のラベルと患者の情報を、声に出して一つずつ照合していく。

形式的な確認に見えるかもしれない。

けれど、自分の名前と薬の量が二人の声で確認されるのを聞いていると、不思議と安心した。

これから身体に入るのは抗がん剤だ。

間違いが許されない薬だからこそ、何度も確認する。

149.5mL/h

投与速度149.5mL/hと記載されたオキサリプラチンの点滴バッグ

最初に吐き気止めが入った。

グラニセトロン、ホスアプレピタント、デキサメタゾン。

こちらは輸液ポンプを使い、一定の速度で身体に入っていく。

その後、オキサリプラチンが始まった。

投与量は245mg。5%ブドウ糖液250mLに溶かされ、薬剤ラベルに記載された予定速度は149.5mL/h。

投与時間は、およそ2時間だった。

抗がん剤と聞いて、色のついた薬液を想像していた。

だが、オキサリプラチンは透明だった。

点滴台に掛けられた袋から、透明な管を通り、透明な液体が身体へ入っていく。

見た目だけなら、普通の点滴と変わらない。

149.5mL/h。

数字だけ見れば、ただの投与速度だ。

けれど、その2時間は、自分にとって初めて抗がん剤を身体へ受け入れる時間だった。

なぜ、機械を使わないのか

吐き気止めは輸液ポンプで管理されていた。

ところが、オキサリプラチンは機械を使わず、自然滴下だった。

抗がん剤の方が慎重に管理されそうなのに、なぜこちらは重力で落とすのだろう。

看護師に聞いてみた。

点滴が血管の外へ漏れたとき、輸液ポンプでは異常が起きても薬液を押し続けてしまうことがある。

自然滴下なら、血管の状態が変わったときに流れが遅くなったり、止まりやすかったりする。

この病院では安全面を考え、オキサリプラチンを自然滴下で投与しているのだという。

病院によって方法は異なるのかもしれない。

ただ、疑問を口にすれば、理由を説明してくれる。それだけで、目の前の点滴が少し理解できるものに変わった。

149.5mL/hで落ちていく、最初のオキサリプラチン。

「痛くないです」と答えてしまう

オキサリプラチンには、血管痛が起きることがあると聞いていた。

そのための点滴も、同時に流れていた。5%ブドウ糖液100mLにデキサート4.95mgを加えたもので、ラベルには「末梢血管痛用」と書かれていた。

対策が最初から用意されているということは、それだけ痛みが起きやすい薬だということでもある。

点滴中、針を刺している腕に少し違和感があった。

強い痛みではない。

看護師が何度も腕の状態を確認してくれた。

「痛くないですか」

そう聞かれると、反射的に答えてしまう。

「痛くないです」

実際には、まったく何も感じていないわけではなかった。

少し重い。少し痛いような気もする。ただ、点滴を止めてもらうほどではないと思った。

患者は、ときどき症状を小さく言う。

この程度なら我慢できる。忙しい看護師を呼ぶほどではない。大げさに思われたくない。

そう考えているうちに、「少し痛い」は「痛くないです」に変わる。

漏れている様子はなく、点滴はそのまま続いた。

それでも次からは、もう少し正確に伝えようと思った。

「強くはありませんが、少し違和感があります」

その一言で十分なのだ。

本当なんだ

点滴が終わる少し前、冷えた麦茶を口にした。

その瞬間、唇がしびれた。

喉の奥にも、細い針で触れられたような違和感が走った。

「あっ」

次に浮かんだのは、不安よりも驚きだった。

「おお、本当なんだ」

冷たいものに触れるとしびれる。冷たい飲み物で喉に違和感が出る。

事前に何度も説明を受けていた症状が、そのまま自分の身体に起きていた。

試しに常温の麦茶を飲んでみた。

今度は何も起きなかった。

違いは、はっきりしていた。

飲み物だけではなかった。

水道の冷たい水に触れただけでも、指先にしびれが走った。

水そのものが、もう冷たすぎた。

2時間が終わる

点滴中、ブログを書いた。

途中で横になり、いつの間にか眠っていた。

二十分ほどして目を覚ましたが、薬液はまだかなり残っていた。

2時間は、短くはない。

けれど、身構えていたような激しい変化は起きなかった。

吐き気で動けなくなるわけでもない。急に熱が出るわけでもない。

自分で歩ける。食事もできる。スマートフォンも触れる。

点滴が終わった直後の感想は、正直なところ、こうだった。

癌の術後より、100倍楽だわ。

手術後の痛み。管につながれた身体。ベッドから起き上がるだけで消耗した日々。

それと比べれば、ずっと楽だった。

抗がん剤治療に対する恐怖が、少しだけ薄れた。

ただ、副作用は、点滴が終わったところで終わるわけではなかった。

針が抜け、病室に静けさが戻ってから、予定表には書かれていなかった症状が、少しずつ始まった。


※この記事は、筆者個人がCAPOX療法(オキサリプラチン)の初回投与を受けた際の記録です。薬剤の種類・投与量・手順は、病院や患者の状態によって異なります。治療に関する判断は、必ず主治医や医療スタッフにご相談ください。


 

※後編はこちら

CAPOX療法1クール目・後編|6時間のしゃっくり

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