食べたい。けれど、帰り道がある。
ツーリング先で食べるものは、旅の楽しみのひとつだ。道の駅に立ち寄れば、焼き鳥やフランクフルトの匂いが流れてくる。ハンバーガーや手羽先が並んでいることもある。
どこの道の駅にも、たいていキッチンカーが停まっている。

昔は、今ほど見かけなかった気がする。観光客が並んでいることもあれば、地元の人が慣れた様子で注文していることもある。
メニューは、その土地ごとに少しずつ違う。ジンギスカン串、ザンギ、揚げたてのコロッケ。立ち寄るたびに、選択肢が増えているように感じる。
匂いだけでも、旅情がある。
ヘルメットを脱ぎ、ベンチに腰を下ろして、湯気の立つ食べ物を眺める。走ってきた距離や風の冷たさも、その匂いの中で少しだけほどけていく。
以前なら、ほとんど迷わなかった。
けれど、ストーマになってからは、食べたあとのことを考えるようになった。
私は、右側に横行結腸ストーマがある。私の場合、固形物を食べると腸が動き、そのまま排出につながることが多い。
もちろん、毎回同じではない。それでも、バイクで走っているときに排出が始まると、車のときより気を使う。
車なら、それほど気にしない。荷物も多く積めるし、身体の自由もある。好きなものを食べ、好きなものを飲む。
だが、バイクでは話が違う。
このあとも、まだ走らなければならない。ストーマ袋が膨らんでも、すぐに停まれるわけではない。トイレも、都合よく見つかってはくれない。
だから、食べたいものを我慢することがある。
特に手を伸ばさなくなったのは、肉系の食べ物だ。焼き鳥、ハンバーガー、手羽先、フランクフルト。
匂いにつられて立ち止まりそうになる。それでも、帰り道のことを考えて我慢する。
牛乳やヨーグルトも、なんとなく避けている。
飲めば必ず何かが起きるわけではない。それでも、乳製品というだけで慎重になる。ソフトクリームも、同じ理由で選ばない。
理屈になっているようで、なっていない気もする。
それでも、バイクの上では、少しでも安心できる方を選びたくなる。
その代わり、飲み物を選ぶ。
水。コーヒー。お茶。
この頃は、冷たいか温かいかで、大きく変わる感じはなかった。
道の駅には、その土地の名前が付いたコーヒーや、地元で作られた飲み物が置かれていることがある。
テイクアウトのコーヒー。ペットボトルのトマトジュース。りんごジュース。
食べ物は我慢しても、飲み物なら選べる。地元のトマトジュース一本でも、何も買わずに帰るよりはいい。
肉も、乳製品も、家に帰ってからでいい。
バイクを降り、シャワーを浴びて、装具の状態を確認する。それから、落ち着いて食べる。
ご当地のケーキやパンなど、良さそうなものがあれば、持ち帰って妻や娘と食べるようにしている。
新鮮な朝採り野菜は、妻に調理してもらう。名産のジャムやシロップは、スムージーを作るときに使っているようだ。

スムージーは、癌になってから作るようになった。栄養のことを考えてくれているのだと思う。
ツーリング先で、何も食べられないわけではない。ただ、以前のように、何も考えず注文することはなくなった。
目的地までの距離だけではなく、食べてから家までの時間も考える。
少し不自由ではある。
それでも、道の駅で選んだ一本のコーヒーが、その日の景色と一緒に記憶に残ることもある。
食べたいものは、家に帰ってからでいい。
帰り道まで無事に走って、それからゆっくり食べる。
今は、それがいちばんうまい。
※この記事は、私自身の身体の反応に基づく体験の記録です。ストーマの種類や状態、食べ物に対する腸の反応には個人差があります。食事や排出の変化に不安がある場合は、主治医、ストーマ外来、管理栄養士などへご相談ください。
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