久しぶりにエンジンをかけようとして、セルが弱々しくしか回らない。
そういう経験が、これまでに何度かあった。
出先でバッテリーが上がったことは、まだない。困るのは、むしろ別のタイミングだった。
数週間、乗らない期間が続いたとき。あるいは、北海道の長い冬を越えた春。
体調には波がある。無理に乗らない日が続くこともある。
バイクの方も、こちらの都合に付き合わされて、しばらく静かに待っていることになる。
そして、ようやくまた乗ろうと思ったとき、先に音を上げるのがバッテリーだった。
こちらは、乗る気になっている。
だが、セルが回らない。
気持ちと機械のタイミングが合わないというのは、思っている以上に萎える。
安心材料は、つながらなければ意味がない
似たような感覚を、峠道でも味わったことがある。
北海道の峠道には、いまだに電波が届かない場所がある。
スマートフォンの画面を見ると、圏外の表示が出る。そういう区間が、まだいくつも残っている。
JAFには入っている。何かあれば、呼べば来てくれる。そのはずだ。
ただし、電話がつながれば、の話である。
つながらなければ、呼ぶこともできない。安心材料のはずのものが、ある場所では意味を持たなくなる。
バッテリーも、同じだった。
「なんとかなる」と思っていたものが、いざという場面で、なんともならないことがある。
誰かに助けを求める前に、自分でどうにかできることは、しておきたい。
そう考えて、充電器を探した。
コンセントがない、というだけで
目についたのが、Kaedear スマートバッテリーチャージャーPRO KDR-B12S、4,688円(税込)だった。
家庭用コンセントにつなぐタイプではなく、USB Type-C入力で動く。モバイルバッテリーからでも充電できるという。
これが、思っていた以上に都合が良かった。
自宅の駐輪スペースには、コンセントがない。
これまでは、そのことをあまり気にせず過ごしてきた。だが、いざ充電しようとすると、地味に困る。
延長コードを引くほどでもない。だからといって、何もしないまま春を待つのも不安だった。
コンセントがいらないというのは、単に手軽だという話ではない。
充電する場所を選ばなくていい。
それだけで、バイクとの付き合い方が少し変わる。
前日に、モバイルバッテリーを満タンにする
運用の仕方は、単純だ。
ツーリング用のバッグに、充電器とモバイルバッテリーを入れている。
私のバイクには、幸い、シートやカバーを外さなくても充電できる給電ポートが付いている。コードを挿すだけで済むので、作業としてはかなり楽だ。

前日のうちに、モバイルバッテリーを満タンにしておく。
使っているのは、残量がパーセント表示される10000mAhタイプである。数字で残量が見えるのは、思っていたより安心につながった。
出先で何か起きたときの備え、というより、今では日々のルーティンに近い。
家を出る前に、充電されているか確認する。
ただ、それだけのことだ。
それでも、何もしないよりは落ち着く。
数字で見るようになった
以前は、エンジンのかかり具合でバッテリーの状態を判断していた。
セルの回り方が鈍ければ、弱っているのだろう。感覚としては、その程度だった。
液晶に電圧が表示されるようになると、乗る前から状態を意識するようになった。
まだ普通にエンジンはかかる。
だが、数字は少し下がっている。
そういう変化を、感覚だけではなく目で確認できる。
それだけでも、ずいぶん違う。
KDR-B12Sには、パルス充電という機能も付いているらしい。
劣化したバッテリーへ断続的に電流を流し、状態の回復を助けるものだという。
正直に言えば、その効果を自分の感覚だけで断言することはできない。
ただ、数週間空けた後でも、以前よりセルの回り方が安定しているようには感じる。
少なくとも、何もしないで待つよりはいい。
大型バイクは、油より電気だった
なんだかんだで、大型バイクはオイル管理よりも、バッテリー管理の方が面倒なのではないかと思う。
軽自動車より大きい排気量のエンジンを積んでいるのに、バッテリーは限られた場所へ収めなければならない。
しかも近年のバイクには、電子制御や電装品が増えた。
エンジンをかける前から、電気を使うものが多い。
油のことばかり気にしていたが、実際に困るのは、電気の方だった。
どれだけガソリンが入っていても、どれだけオイルが新しくても、セルが回らなければ始まらない。
バイクは、まず火が入らなければ走れない。
その当たり前のことを、乗らない時間に教えられた。
峠で電波が届かないことも、乗らない期間にバッテリーが弱ることも、普段はあまり意識しない。
見えないまま進み、いざというときに困る。
どちらも、そういう類のものだと思う。
だから、備えておく。
バイクを長く休ませることになる時期も、これからあるかもしれない。
その間、バイクは何も言わずに待っている。
こちらが戻ったとき、少なくともセルだけは元気に回ってほしい。
充電器とモバイルバッテリーは、これからもツーリングバッグの中に入れておくつもりだ。
次にエンジンをかける日のために。