夜の写真を、ほとんど撮ったことがなかった。考えてみると、駅は都合がいい。終電近くまでは明かりがあり、駐車場もある。昼ほど人も車も多くないだろう。そんな理由で、あいの里教育大駅を選んだ。
一般車用のスペースにBMWを停めて外へ出る。駅前にはタクシーが二台。運転手同士が、車の外で立ち話をしていた。近くに教育大があるせいか、リュックを背負った学生の姿もぽつぽつ見える。
昼なら気にも留めない光景なのに、夜になると一つひとつが妙に目に入る。
駅舎の外観は、いたって普通だった。「教育大」の名前がつくくらいだから、何かそれらしい意匠でもあるのかと思って細部を見てみる。けれど、特にそれらしいものは見つからない。
白い駅舎と、明るい窓。その後ろに連絡通路が伸びている。夜に見ると、昼間より少しだけ輪郭がはっきりして見えた。
駅前に、懐かしい電話ボックスが残っていた。今ではほとんど見かけなくなった公衆電話。周囲が暗いぶん、そこだけスポットライトを浴びているように見える。
必要だから残っているのだろう。それでも夜の駅前で見ると、少し前の時代から置き忘れられたもののようだった。
線路の反対側へ渡る連絡通路に入る。半円形の骨組みが何度も繰り返され、その下を階段がまっすぐ伸びている。
この蛇腹のような天井を見て、大腸みたいだと思った。たぶん、そう見える人はあまりいない。
通路の途中には、線路を見下ろせる窓がいくつかあった。ホームには誰もいない。線路の先には、街灯と遠くの看板だけが浮かんでいる。
電車が来れば一枚撮れるかもしれないと思い、しばらく待ってみた。
来ない。
十分ほど粘ったところで諦めた。こういうところで辛抱が利かない性格は、昔から変わらない。
駅を出て、少しだけ周辺を歩いた。観光地でもなければ、夜景スポットでもない。街灯に照らされた道路と、駐車場と、少し離れた店の看板。
それでも、カメラを持って歩くと、普段なら通り過ぎるだけの景色で足が止まる。今日、一番の収穫かもしれない。

駅前に戻ると、一台のバスが停まっていた。フロントには「回送」。その下に、Out of Service。客を乗せる気配はない。
昼間なら気にもしなかっただろうが、暗い駅前ではオレンジ色の表示だけがやけに目立った。駅は止まっているように見えて、その周りではまだ何かが動いている。

最後に、少し離れた場所から駅を振り返った。木々の向こうに白い駅舎だけが浮かんでいる。
冬になれば、この場所から見ても雪山に隠れてしまうのだろうか。真夏なのに、そんなことを考える。
夜の駅に来ると、少し感傷的になる。竹内まりやの「駅」が、頭の中で流れ始めた。今は夏休み。朝の慌ただしさとは無縁の時間だ。
目の前にあるのは、きっと特別でも何でもない、いつもの夜。だからこそ、今日はそこに目が止まった。
Camera:Sony α7 V
Lens:FE 24-70mm F2.8 GM II
撮影日:2026年8月14日
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