道は、まだ北へ続いている。

直腸がんで、ストーマのある体になった。
仕事に戻り、バイクにまたがって、北海道を走っています。
治療のこと、暮らしのこと、写真や音楽のこと。思いつくまま、ここに書いています。
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仕事に戻り、バイクにまたがって、
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写真や音楽のこと。
思いつくまま、ここに書いています。

針と再生 #26|Madonna『True Blue』

Artist:Madonna
Album:True Blue(1986)
Track:Live to Tell/Papa Don't Preach/True Blue

自分は、暗い曲が好きなのだと思う。

それに気づいたのは、高校生の頃だった。

友達と、マドンナの曲なら何が好きか、そんな話をしていた。どうして『True Blue』の話になったのかは、もう覚えていない。

僕は「Live to Tell」と答えた。

すると友達は、少し意外そうな顔をした。

「えー、あの曲、暗くない?」

たしかに、暗い。でも、その暗さがよかった。

派手な演奏よりも、マドンナの声がよく響いていた。力強く押してくるというより、静かな場所から届いてくるような声だった。サビに向かう手前で、音数がふっと絞られる瞬間がある。そこだけ、部屋の空気が変わるような気がした。

今思えば、みんなが好きだと言う曲に、そのまま賛同するのが嫌だったのだと思う。

「True Blue」がいい曲なのは分かっていた。人気があるのも当然だと思っていた。それでも、僕は「Live to Tell」を選んだ。

少し玄人っぽく見られたかったのかもしれない。みんなとは違う曲を挙げることで、自分だけは少し深く聴いているような顔をしたかった。

若さゆえの背伸びだった。

けれど、見栄だけなら何十年も残らない。大人になった今でも、「Live to Tell」が好きだ。

次に好きだったのは「Papa Don't Preach」だった。こちらは、文句なしに名曲だと思う。

マドンナを強く意識したのは、中学生の頃だった。

MTVで流れる「Like a Prayer」を、狂ったように見ていた。曲だけではなく、映像そのものに引き込まれていたのだと思う。教会のセットも、燃える十字架も、当時の自分には刺激が強すぎた。それでも、チャンネルを変える気にはならなかった。

マドンナは、音だけの存在ではなかった。声も、映像も、衣装も、ジャケットも、全部がひとつになっていた。

『True Blue』が出た1986年は、『トップガン』が公開された年でもある。

あの頃は、音楽も映画も、何もかもが楽しかった。テレビをつければ新しい映像が流れ、レコード店へ行けば聴いたことのない音楽が並んでいた。次に何が出てくるのか、いつも少し期待していた。

そんな明るい時代の中で、僕が選んだのは「Live to Tell」だった。

『True Blue』のレコードを買ったのは、大人になってからだ。

マドンナのCDはひと通り持っていた。『True Blue』も、もちろん棚にあった。音を聴くだけなら、それで困らない。

それでも、アナログレコードで欲しくなった。

Madonna『True Blue』のレコードジャケット

とくに『True Blue』は、ジャケットがいい。

水色と言い切るには少し深く、青と言い切るにはやわらかすぎる。あの色は、簡単には名前をつけられない。

淡い青の中に、マドンナの横顔が浮かんでいる。部屋に置けば、それだけで一枚の絵になる。棚に立てておくだけで、時々目が吸い寄せられる。

中古レコード店で見つけたとき、内心で「ラッキー」と思った。

すでに持っているアルバムを、もう一度買う。音楽を聴くだけなら、必要のないことかもしれない。

けれど、レコードには、音とは別の欲しくなる理由がある。

大きなジャケットを手に取り、針を落とす。「Live to Tell」が流れ始めると、高校生の頃の自分が少しだけ戻ってくる。

みんなと違う曲を選び、分かっているような顔をしていた。あの頃は、それが少し誇らしかった。今なら、そんなに気張らなくてもよかったのにと思う。

それでも、選んだ曲は間違っていなかった。

針が最後の溝をたどり終えると、部屋に静寂が戻った。

レコードを盤面に触れないよう端を持って、内袋に収める。ジャケットに収め、棚へ戻す。背文字が列に並ぶ。

また会う日まで、そこにいてくれ。

大人になって買い直した一枚の中に、暗い曲を選んだ高校生の僕が、今も残っている。

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