Artist:Madonna
Album:True Blue(1986)
Track:Live to Tell/Papa Don't Preach/True Blue
自分は、暗い曲が好きなのだと思う。
それに気づいたのは、高校生の頃だった。
友達と、マドンナの曲なら何が好きか、そんな話をしていた。どうして『True Blue』の話になったのかは、もう覚えていない。
僕は「Live to Tell」と答えた。
すると友達は、少し意外そうな顔をした。
「えー、あの曲、暗くない?」
たしかに、暗い。でも、その暗さがよかった。
派手な演奏よりも、マドンナの声がよく響いていた。力強く押してくるというより、静かな場所から届いてくるような声だった。サビに向かう手前で、音数がふっと絞られる瞬間がある。そこだけ、部屋の空気が変わるような気がした。
今思えば、みんなが好きだと言う曲に、そのまま賛同するのが嫌だったのだと思う。
「True Blue」がいい曲なのは分かっていた。人気があるのも当然だと思っていた。それでも、僕は「Live to Tell」を選んだ。
少し玄人っぽく見られたかったのかもしれない。みんなとは違う曲を挙げることで、自分だけは少し深く聴いているような顔をしたかった。
若さゆえの背伸びだった。
けれど、見栄だけなら何十年も残らない。大人になった今でも、「Live to Tell」が好きだ。
次に好きだったのは「Papa Don't Preach」だった。こちらは、文句なしに名曲だと思う。
マドンナを強く意識したのは、中学生の頃だった。
MTVで流れる「Like a Prayer」を、狂ったように見ていた。曲だけではなく、映像そのものに引き込まれていたのだと思う。教会のセットも、燃える十字架も、当時の自分には刺激が強すぎた。それでも、チャンネルを変える気にはならなかった。
マドンナは、音だけの存在ではなかった。声も、映像も、衣装も、ジャケットも、全部がひとつになっていた。
『True Blue』が出た1986年は、『トップガン』が公開された年でもある。
あの頃は、音楽も映画も、何もかもが楽しかった。テレビをつければ新しい映像が流れ、レコード店へ行けば聴いたことのない音楽が並んでいた。次に何が出てくるのか、いつも少し期待していた。
そんな明るい時代の中で、僕が選んだのは「Live to Tell」だった。
『True Blue』のレコードを買ったのは、大人になってからだ。
マドンナのCDはひと通り持っていた。『True Blue』も、もちろん棚にあった。音を聴くだけなら、それで困らない。
それでも、アナログレコードで欲しくなった。

とくに『True Blue』は、ジャケットがいい。
水色と言い切るには少し深く、青と言い切るにはやわらかすぎる。あの色は、簡単には名前をつけられない。
淡い青の中に、マドンナの横顔が浮かんでいる。部屋に置けば、それだけで一枚の絵になる。棚に立てておくだけで、時々目が吸い寄せられる。
中古レコード店で見つけたとき、内心で「ラッキー」と思った。
すでに持っているアルバムを、もう一度買う。音楽を聴くだけなら、必要のないことかもしれない。
けれど、レコードには、音とは別の欲しくなる理由がある。
大きなジャケットを手に取り、針を落とす。「Live to Tell」が流れ始めると、高校生の頃の自分が少しだけ戻ってくる。
みんなと違う曲を選び、分かっているような顔をしていた。あの頃は、それが少し誇らしかった。今なら、そんなに気張らなくてもよかったのにと思う。
それでも、選んだ曲は間違っていなかった。
針が最後の溝をたどり終えると、部屋に静寂が戻った。
レコードを盤面に触れないよう端を持って、内袋に収める。ジャケットに収め、棚へ戻す。背文字が列に並ぶ。
また会う日まで、そこにいてくれ。
大人になって買い直した一枚の中に、暗い曲を選んだ高校生の僕が、今も残っている。